「小明、テストどうだった? あたしさんざんでさ〜」
今し方返却されたばかりの解答用紙を持ち、さやかは小明の肩を気軽に叩いた。まだ授業中であるにもかかわらず、さやかと同じように友人の机まで立ち歩いて雑談に興じているクラスメイトがちらほら見られる。注意すべき教師はひっきりなしに持ち寄られる採点違いや、あわよくば点数upを目論む生徒との交渉などに追われてやや放任気味だ。
「……小明?」
うんともすんとも反応のない小明に、おずおずと亜子がその顔を覗き込む。亜子と目があった小明はぶあっと目尻に涙を浮かべた。慌てたのは亜子である。
「ちょっ、どーしたの小明!?」
「そんな泣くほど点数悪かっ……たのね」
机の上に放置されていたそれを取り、さやかが言った。いつもなら威勢良くかかかる「勝手に見ないでよねッ」がないのが少し物足りない。
「それだけじゃないの」
「?」
その言葉に、亜子もつられるように用紙を覗き込んだ。
「……あんた、解答欄一個ずつずれてない?」
それまできちんと埋められていた欄は途中一つだけ空いていて、その下から順繰りに記入すべき回答がずれている。
「そーなのよおおおッ!!」
だんっと両の拳で机を叩き、小明はそのまま突っ伏してしまう。
勉強不足で点数が悪いのは当然のことだ。けれどしっかり勉強をして、問われている題の答えが判っているのにもかかわらず、ちょっとしたケアレスミスで得られるはずだった点数を失ってしまった小明の心情は、容易に察しがつく。
「……小明……」
「……ご愁傷様」
うあああと崩れる彼女に、二人は何が言えただろう。慰めや励ましの代わりのように、彼女たちは慈愛に満ちた表情を浮かべ、遣る瀬無さに震える親友の肩にそっと触れた。
空欄に泣く