そうっと手を伸ばして、恐る恐る触れてみる。怒鳴られて振り払われないのをいいことに、ちょっと調子に乗って指を滑らせた。
 白いペイントのようなものが塗られた頬、太い首筋、鎖骨を辿って、鎧の中に指を入れようと試みるが、鎧と体は思った以上に密着していて叶わない。最初の試みはとりあえず諦めることにして、代わりのように胸に触れる。それは硬くてつるつるしているけれど何故かなんとなく温かくて、確かに彼が生きているのだと教えてくれた。人間のように心臓の音も聞こえるのだろうかとぴったり寄り添うが、思い描いたものは聞こえない。もしかしたら場所が違うのかもしれないと、ごそごそ頭を動かした。
「くすぐってえな」
「きゃあッ!?」
 低い声がすぐ耳元に落とされて、驚いて顔を上げる。鼻と鼻の距離は、思ったよりもずっと近かった。
「うるせえよ」
「だ、だってあんたが急に喋るから」
「うるせえっつってんだろ。耳元でぎゃんぎゃん騒ぐな」
 文句を言われている筈なのに、その声には不機嫌さとか苛立ちとかいうものが込められていなくて、少し訝しむ。だってどう見ても怒っているようには見えない。かといって笑っているわけでもないが。
「てめえの疑問とやらは解決されたか?」
「……う〜ん…………やっぱりわかんない」
「そうかよ」
 別段興味のなさそうな声だった。極めて自然な動作で身を起こす。
「なら、もうオレ様がじっとしててやる必要はねえんだな」
「はあ? って、」
 何だと思う間もなく、視界が反転する。
「え、な、ちょっ……」
「覚悟は出来てるんだろうな?」

 ――――出来てるわけないです。

 

 そんな理屈が通じるわけも、ましてや相手でもなく。

 

 

未知を探ること探検、
危険を冒すこと冒険