キィィィィィ、としか表現できない耳鳴りのような音が鼓膜を揺さぶり、何かに引っ張られている感覚が少しずつ強くなる。呼ばれていると、咄嗟に悟った。
(今度は何だ?)
 思い浮かぶ可能性(というか希望)としては敵が現れたことが真っ先に挙げられるが、大抵は荷物持ちや何かの使い走りなどが殆どだ。
 強制的に召喚されてしまうのはあまり気分のいいものではなかったが、逃げようとして逃げられるものではないことも解っている。……まだ認めたくはなくて、時折抵抗をしてみたりはするのだが。
 逃げられるわけがない。この身に呪縛をかけたのは小角で、呼んでいるのは小明だ。
 前者はその気になればそろそろ捻じ伏せられそうになってきたが、後者は、あの女が呼んでいると思うだけで、なんとなく抵抗する気が薄れてしまう。これはどうしたことか。小角にかけられた呪縛が解ければ晴れて自由になれるというのに、これではまるで新しい別の呪縛にかかってしまったみたいだ。
 妙な方向に傾きかけた思考を中断して、とりあえずは引っ張ってくる力に身を任せる。次に目を開けた時には己に相応しい血が騒ぐような戦いがあればいいと、それだけを考えた。

 ――――そうしたらあの女は泣くだろうか。

 

 ああこんなもの。
 どうしたって、逃げられるわけがない。

 

 

いくら気づかないふりをしたって