小明は手近な部屋に駆け込んで、勢いよくドアを閉めるとしっかりと鍵をかけた。
(落ち着いてあたし。大丈夫よ、大丈夫……)
 呪文のように心の中で繰り返す。とにかく落ち着いて、冷静にならなければ。激しく脈打つ心臓も大きく響く呼吸も煩わしくて、小明はしゃがみ込んだまま口元を手で押さえた。早く静まってほしい。でなけれは聞こえてしまう。見付かってしまう――――

「見付けたぜ」

 背後から笑いを含んだ声で囁かれ、小明は身を固くした。

( う そ )

「オレ様から逃げられると思ってんのか?」

 振り返っては駄目だと、頭の中で警報が鳴る。

 

(だって、)

(いま振り返ったら、)

(もう、――――)

 

 

射程距離と心拍数