「わー、夕焼けきれーい」
鞄をベッドに放り投げて、あたしはシャッとカーテンを引く。殆ど沈んでる太陽は、でも充分すぎるほど眩しくて目を細めてしまう。薄い水色からオレンジ、藍色に変わっていくグラデーションが綺麗だった。
「たかが夕焼けの一つや二つではしゃいでんじゃねえよ、うつけが」
後ろから聞こえた、呆れたような馬鹿にしたような声に、すべてが台無しにされる。まあ解ってたけどね、こーゆうやつなんだってことくらい。後鬼丸くんなら、きっと笑ってそうですねって言ってくれるのになあ。
あたしは制服のブレザーを脱ぎ捨てた。名残を惜しみつつカーテンを閉める。
「ちょっと前鬼、あたし着替えるんだから出てってよ」
いつまでいるつもりよ。女の子が着替えようとしてるっていうのに、まったく気が利かないんだから。
……て、あれ、返事がない。いつの間に出て行ったんだろうと顔を上げる。ドアが開いて閉まる音なんてしなかったのにな。
「……一言、声かけてくれればよかったのに」
なんか恥ずかしい。前鬼が気紛れに黙って何処かへ行っちゃうのはよくあることなのに、どうしてあたしは、前鬼が今でもこの部屋にいると思ってたんだろう。
ふいに、シュルリと制服のリボンをとかれた。
びっくりして顔を戻すと、そこには机に腰掛けてる前鬼が。
「なっ、あんた、出てったんじゃなかったの!?」
「てめえが勝手に勘違いしただけだろーが」
早く出てってと言う筈だった言葉は、前鬼の眼を見ているうちに溶けて消えた。体が動かない。何かを考えることも出来なくて、ただ馬鹿みたいに前鬼から目が離せなかった。
制服のリボンは前鬼が握っている。この金縛り状態は多分そのせいだ。カーテンの外は、もう殆ど藍色に包まれてしまっている。逃げ場所をなくしてしまったみたいで心もとない。こわい、とは思わないけれど。
段々と薄暗くなっていく部屋の中で何故か前鬼の眼だけが、爛々と赤く光っているみたいに見えた。
やがて