これは毒だ。
 鬼神に効く毒があるのか否かはまあこの際置いておくとして。とりあえずこれは毒なのだ。誰が何と言おうとも。口に含めば気が狂うしかない。肉体を内側から造り変えられる。今までのようには生きていけなくなってしまう。それは嫌だ。それは困る。それは屈辱だ。そんな目に遭うくらいなら死んでやる。それなのにどうしたことか、それでもオレ様はこれを食いたいのだ。本能すらガンガンに警告を鳴らしているというのに。
 これは毒だ。近付くな! 近づけるな!
 触れるな!

「……貴方の場合、逆効果じゃないでしょうかねえ」
 後鬼丸は湯飲みを手に、首を軽く傾げる。
「何が」
「だって前鬼、貴方、今まで『するな』と言われてそれに従ったことがありますか?」

 これは毒だ。命に関わる。本能が告げている。あれは危険だ。女の皮をかぶった恐ろしいものだ。手にするのなら命を賭けなければならない。

「試してみたらいかがですか、そこまで悩んでいるのなら。あ、言っておきますけど、ボクのせいにしないでくださいね。行動するか否かを決めるのは前鬼ですから」
 高みの見物を決め込む気らしい相方は、飄々とそんなことをのたまった。実に相談し甲斐のない輩である。
「そんなことでどうにかなってしまうほど柔ではないでしょう」
 当然だ。史上最強の鬼神様を何だと心得ている。
「まあ、恋で死んだ鬼神というのも結構面白そうですけど」

 本能が叫ぶ。警告が鳴り響く。
 近付くな!

 

「うるせえ黙れ」

 

 

警告