いつもより低い灰色の空からパラパラと雪が落ちてきた。





「あ、雪だ・・・」

「本当ッスね。どうりで冷えると思いました」


しかし、幸いにも雪はまだチラつく程度。
10代目の家までも後数歩と言った所まで帰ってきていた。
そんな短い距離は少し大幅で歩けばすぐについてしまう。


「でも良かったです。10代目が家に帰る前に降り出さなくて」

「何いってるんだよ。君はまだ、これから帰るんだろ?」


あぁ・・・。
俺は雪のパラつく空を見上げた。
たしかに俺が家に帰るまでに雪が多く降り出さないとも限らない。
だけど、その程度どうって事ない・・・と、初めから俺は考えていた。
俺の事より10代目だ。
せっかく家についたのに、俺の心配なんかで中に入れないで居る。
赤くなった鼻の頭と頬が痛々しい・・・。


「このくらいなら平気ッスよ!降ってきたら走って帰りますし」

「そういう問題じゃないんだけどな・・・」

「俺、丈夫ですから!」

「でも・・・。そうだ!少し家に上がっていかない?」

「気を遣うわせてしまってるんですね・・・、スミマセン10代目・・・っ・・・でも本当に大丈夫ッスから!」


とにかく!10代目は早く中へ・・・。俺がそう言ったのと同時に玄関の扉が開いた。


「あらあら。話し声がすると思ったら、ツナに獄寺君・・・。こんなに寒いのに外で立ち話?」

「母さん・・・」

「中に入ればいいのに。まったく気が利かない子ね〜。ごめんなさいね?獄寺君。」

「お、お母様・・・!いえ、俺はこれから帰るところで・・・」

「遠慮しなくていいのよ?何か温かい飲み物をいれるから。どうぞ、入って?」


笑顔で言われてしまえば断る事など俺にはできず・・・。素直にうなずいた。
足を踏み入れた中は・・・温かかった。


「獄寺君って、母さんのいう事は結構素直に聞くよね?」

「そ、そんな事ないっすよ・・・」

「そう?・・・まぁいいや」


10代目の部屋に入ると、リボーンさんはストーブにあたりながら居眠りをしている。
まぁ、この人の場合・・・本当に寝ているのかは謎だが・・・。
しかし。そのおかげか、部屋は完全に隅々まで暖まっていた。


「そこらへん座ってて?今、飲み物取ってくるから」

「あ!俺がいきます!」

「駄目だよ。君はお客さんなんだからさ」

「は、はぁ・・・すみません・・・」


俺は静かに腰を下ろし、カーテンがまだ閉められていない窓の外を見た。
さっきより雪の降りが多くなってきたような気がする。
10代目も、お母様も、本当にお優しい・・・。こんな俺のことまで気にかけて下さる。
日本に来る前の俺は・・・今思い返すと正直、寂しいやつだったと思う。
一匹狼・・・馴れ合いは不要・・・マフィアになれればそれでいい・・・別に死すら恐れてなどいなかった。
きっとそれは日本に来てからも同じ事なのだと思っていた。
家に帰っても、暗く冷え切った、生活感も何も無い部屋・・・。そんなの慣れっこだと・・・思っていた。
しかし、日本に来て・・・10代目や他の連中に会って・・・俺は、変わった。


「おまたせ〜。ココアなんだけど平気かな?」

「はい。いただきます」


冷え切っていたからか・・・、カップから掌に伝わる温かさが心地いい・・・。
誰かと一緒に居る事の温かさ…。
今まで不要とばかりに遠ざけていた物…それが、こんなに幸せな事だなんて…。


「獄寺君?・・・ココア・・・冷めちゃうよ?」

「あ!す、すみませんっ」

「別にいいよ。でも、どうしたの?ぼーっとして」

「いえ、ただ・・・嬉しくて・・・」

「え?」


まさか、誰かと一緒にこんなふうに安心しながらココアを飲む事なんて考えてもみなかったから。
一人で飲んでいた時は、温かくなったはずなのに・・・どこかまだ冷えていた。
でも、今は違う。心が満たされ、体も心も温かい。


「美味しいです。ココア」

「そうだね」

「あたたかいですね。ココア」

「うん・・・そうだね」

「今度は、俺がココアご馳走しますね」

「うん、楽しみにしてる」




こんな他愛無い会話すら・・・。今は心地いいのだ。








あたたかいココア