045:年中無休
「秀ちゃん秀ちゃん秀ちゃーんっ!」
いつもながら元気一杯に駆け寄ってくるわぴこの声に、秀一が振り返った。つけすぎた勢いをキキッと止めながら、わぴこは秀一との正面衝突を免れる。秀一も慣れたもので、特に驚いた様子は見られなかった。
「何だいわぴこ、どうかした?」
「あのねっ、文太くんが何か面白いもの見付けたんだって! これからみんなで見に行くんだけど、秀ちゃんも一緒に行かない?」
キラキラと顔を輝かせてわぴこが言う。きっと急いで来たのだろうが、息が微塵も切れていないところが彼女らしかった。
今日の予定を思い巡らせることもなく朝にした両親との約束が思い浮かび、秀一はすまなそうに顔を顰める。
「あ……ごめんね、今日は家の手伝いする約束しちゃったんだ」
「そっかあ〜、残念」
わぴこは軽く気落ちしたように肩を落とした。遠くから、わぴこちゃん早くーと呼ぶ声がする。
「うん今行くー! それじゃあ秀ちゃん、また明日ね!」
「うん、また明日」
すちゃっと片手を上げ、来た時と同じように走り去っていく後ろ姿に手を振った。見えなくなるまで見送ることはせずに歩き出す。
最初は、彼らの誘いを断ることはその分彼らのと間に溝を作っているような気がして怖かったことを覚えている。もう二度と誘いに来てくれなかったらどうしようかと、胸を痛めたこともあった。そんなことわぴこたちは、少しも気にしていなかったのに。断ろうと断るまいと、遊びの誘いは毎日来た。たとえばそれがどんなに小さなことで、くだらないことでも、わぴこたちが楽しむのはそれで充分だったのだ。
今回は一体どんな「面白いもの」だったのだろうと思って苦笑する。
(ま、いっか)
どうせ明日になれば「面白いもの」を見付けたわぴこたちに、逐一報告されるのだろうから。