ずらりと並んだ忍軍たちが、蘇摩を筆頭に揃って深く礼をした。帝は中央より端に寄った形でこの儀式の進行を静かに見詰めている。壇の中央、日本国の御旗を背にして立つ姫の手の上には、彼女の身丈以上もある一振りの刀が浮かんでいた。少女らしい高めの少し幼い声が、けれど凛とした響きを持って口上を述べていく。刀を姫の手ずから受け取った瞬間に、黒鋼は正式に白鷺城の忍となる。これはそのための儀式だ。
 白鷺城の忍には城内の警備はもちろん、国内外を問わずの情報収集や、時には暗殺さえも請け負う。けれど、最たるものは天照帝や月読姫の護衛だ。両者ともそれぞれ武術や呪術に秀でていたが、彼女たちは日本国の要。いくら必要がないほど強くとも、警護を怠るわけにはいかないのである。
 黒鋼は何度も練習した口上を諳んじる。出来なければ忍軍に迎え入れられないと、半ば脅されるように覚えさせられたものだ。顔を上げれば、良く出来ましたと褒めるように知世はにこりと微笑んだ。咄嗟に顔を逸らしそうになって、なんとか堪える。それを悟ったのか、彼女の笑みはますます濃くなった。
 本当はこんな儀式など、黒鋼にとって何の意味も持たない。だってこれは誰のためでもなく、黒鋼自身が望んだこと。他人など関係ない。誰が否認しても、彼女の頷き一つあれば成立する契約だ。
 激しく荒れ狂っていた胸の内を鎮めてくれたのは、彼女。感謝の言葉を尽くしても足りず、一生かかっても返しきれないほどの恩を受けた。
 だからこれは黒鋼なりの精一杯の、命をも懸けた恩返しだ。
(俺は、父上との誓いを守る)
 愛しているのかと訊かれても頷くことはまだ出来ないけれど、自分が一生を捧げて仕える相手は彼女がいい。
 黒鋼は、知世の深く優しい瞳を見詰めながら、恭しく両手を伸ばした。

 

 

これは忠義